未来のかけらを探して

3章・過ぎた時間と出会いと再会
―33話・譲れないからケンカ―



ともかく今夜は一泊することが確定しているので、
寝床の支度だけは済ませてもらったプーレ達は、夕飯の採集に出掛けた。
「プーレ、ギサール食べるでしょー?」
「うん。ありがとう!」
冷涼な気候のこの森だが、季節がいいのか食べ物はなかなか豊富だ。
少なくとも、泊まる間は困りそうにない。
しかし、取り過ぎては群の仲間にも迷惑だろうと、
大食いのパササやエルンのことを考えたアルセスは、自分の食料採集も兼ねて狩りに出かけている。
帰りは遅くなっても、この辺りのモンスターなら何の心配も要らない。
だからプーレ達は、果物や野菜の採取にいそしんでいれば大丈夫だ。
遅くてもちゃんと夕飯には帰ってくるのだから。
「アルセス、ちゃんといいのとってくれるかなぁ?」
エルンが早くも獲物の心配をし始める。
大方、大きいのが取れなかったら嫌だなと思っているのだろう。
もっとも当のアルセスに言わせれば、心配なのはむしろお前らの方だろと呆れそうだ。
“心配しなくても、野生全開で取って来るって。”
能天気にエメラルドが言っているが、恐らくそのとおりに取ってくるだろう。
「あ、めずらしくまともなこと言ってル!」
“あ、ひどい。俺のガラスのハートがずたずたになっちゃう!”
「お前のどこがガラスのハートなんダヨ!石のクセに!!」
エメラルドの心はガラスどころか、
ハンマーで叩こうがするする逃げそうなタフマインドに違いない。
文字通り、石のように頑丈かもしれないが。
「なんていうか、たしかにガラスはうそだよね……絶対。」
“一番へこたれないからな、こういう性格は……。”
プーレとルビーがこっそり影で呟くが、まさにその通りだ。
こういうタイプは、恐らく一番丈夫な性格だろう。
何があっても立ち直る以前に、まず立ち直る必要がある精神状態にならなさそうだ。
そこまで考えても失礼な気がしないのだから、
エメラルドはある意味すごい。
「このけんかも、何かもうすっかり名物みたいになってるよね。」
「うん。楽しいよねぇ〜。」
「べつに楽しくはないけど……。」
エルンにとってはパササとエメラルドの口げんかは楽しいらしい。
漫才まがいではあるから、確かに他人事としてみれば楽しいのだが、
プーレは残念ながらこれを楽しめる感性ではなかった。
「パササ、けんかしないでちゃんとごはん探してよー。」
「あ、ゴメンゴメン!」
プーレに注意されて、パササはペロッと舌を出した。
これが他の用件で呼ばれたのならまた違っただろうが、
彼にとっては食事は最重要課題だけに、あっさりエメラルドとの漫才喧嘩を放棄した。
ある意味では大変扱いやすい。
「でも、けっこう集まったよねぇ〜?」
「そう言われてみればそうかも。……持って帰れるかな、これ。」
一杯に積みあがった果物や野菜は、結構な量になっている。
少なくとも、いったん戻らないと持ちきれない。
「あ、でもいつもみたいに食べてから帰っちゃえばいっか。
どうせ、ぼくはいっぱい食べないし。」
大食いで、山のように食べないと身が持たないパササやエルンと違い、
プーレもアルセスも常識的な量しか食べない。
それなら、今ここで持ち帰る分をちょっと減らしてもらう方が賢いやり方だ。
「えっ、食べていいノ?!」
「わ〜い♪」
プーレの呟きを耳ざとく聞きつけ、食いしん坊の2人は大喜びだ。
こっそり集めている間にも、つまみ食いをするのが常の彼らだから、
許しが出れば大はりきりになる。
“言っておくが、食べ過ぎるなよ。”
「分かってるってバー!」
ルビーが釘をさすが、果たしてどこまで聞いているだろう。
もし食べ過ぎても、プーレがきっちり止めるから心配は要らないのだが。
「うーん、プーレの森のお野菜おいしいねぇ〜!」
「そうでしょ?今はたしかパサーナの野菜だったかな?あれがおいしいんだよ!」
プーレも好きなパサーナの野菜は、丁度今が旬なのだ。
この時期になると、ギサールの野菜よりも人気を博すほどである。
動物や鳥だって、旬のおいしいものには目がないのだ。
「このおいしさ、アルセスにはわかんないなんてソンだよネ〜♪」
パササが野菜をほおばりつつ豪語する。
何でもおいしくいただく彼とエルンは、
量さえまかなえればどこへ行っても困らないのがありがたい。
“本と、よく食うな〜。背も横も伸びないのに。”
「ウッサイ!!」
横からエメラルドに茶々を入れられて、
パササはすかさず袋の中のエメラルドに向かって怒鳴った。
食事の邪魔をされたせいか、いつにも増して怒りがこもっている。
“あ、口の中に物入ったまんま喋るなんてマナー違反だぞ?”
“お前が余計なことを言ったせいだと思うんだが。”
「ウン、ルビーの言うとおリ!」
食べる手を休めずに、ルビーのつっこみに大いに同意する。
横でおとなしく食べているエルンとは対照的な騒がしさだ。
食べる時くらい静かにと、店の中でなら言うところだろうが、
ここは屋外なので誰もつっこまない。
「この分なら、すぐに持って帰れそうだね。」
自分もギサールの野菜をかじりながら、しみじみとプーレは呟いた。


プーレ達が巣に戻ると、
一足先に戻っていたアルセスが獲物を解体しているところだった。
「たっだいマー!」
「お、おかえり!」
「アルセス早いね〜。」
「ついさっきだよ。大して変わんないって。」
びっくりしているプーレにそう笑って答えて、
先に解体が済んだ分を串に刺していく。
今日は串焼きにするらしい。
「ルビー、火を出してくれナイ?」
“わかった。ファイア。”
帰りに集めてきた焚き木に、ボッと赤い火が灯る。
これだけでもう、肉を焼く準備は大丈夫だ。
「アリガトー☆」
「じゃあ、さっそく焼いちゃうよ。」
くしに刺さった肉をアルセスに渡されたので、もらったはしから焼きに入る。
肉を解体する傍らで、おいしそうないい臭いが漂い始めた。
「(あら、なんだかにおうと思ったら。焦がさないように火には気をつけてね。)」
「はぁ〜い♪」
覗き込んできたプーレの伯母さんに、エルンが返事をする。
チョコボだから肉が食べたいわけではないだろうが、
やはり伯母さんもにおうと気になるらしい。
感想はともかく、生き物としては当たり前だろう。
「今日はどれくらい焼こうかなぁ?」
ミディアムかウェルダンか、
肉は焼き加減で食感も味も変わるから気分次第で楽しめる。
もっともモンスターの肉に関しては、
生焼けだとどんな寄生虫がいるかわかったものではないので、じっくりウェルダンが推奨だ。
今日、アルセスが獲ってきた獲物はどうなのだろうか。
“ちゃんと焼くんだぞ。”
「わかってるヨー。」
いちいち言われなく手元ばかりに口を尖らせて、
パササは串を持ってあちこち角度を変えてはあぶっている。
早く焼けないものかとやきもきしているらしい。
野菜が煮えるのを待つ時のプーレも、似たような気持ちなのでよく分かる。
「おいしくな〜れ〜。」
エルンがのんきにおまじないのようなことを言い始めた。
横ではアルセスが、ひときわ大きく切った肉を焼き始めている。
エルンのおまじないの甲斐あってかどうかは分からないが、
この日焼いた肉は、みんなちょうどいい具合に焼けたのだった。


―翌日―
旅の疲れを癒すために早めに寝た一行は、
プーレのせっかくの里帰りだから今日はのんびりしようというアルセスの提案で、
一日ゆっくり過ごすことになった。
「ねぇねぇ、プーレはともだちのところに行くぅ?」
「え?うーん……どうしよっかな〜……。」
エルンに聞かれて、プーレは難しい顔をした。
会いたくないわけではないのだが、なんとなく気乗りがしない。
“他の皆が大きくなってるだろうから、ちょっと会いづらいのか?”
「そうなのかな?うーん、どうなんだろ?」
本人にもよく分からないようだが、そんなものだろう。
自分の気持ちとは、時に自分自身さえ把握不能になるのだから。
“そんな事言ってても、あっちから来ると思うけどな〜。”
「何で?」
“昨日あれだけさわいでただろ?”
エメラルドが言う事は珍しく、といっては失礼だがもっともだ。
確かにあれだけの歓迎ムードだったのだから、
気になって見に来ても当然だろう。
むしろ、昨日来なかった方が不自然なくらいに違いない。
「そういえば、みんなすごかったっケ。」
うるさい位の歓迎を受けたことを思い出して、パササがしみじみとうなずく。
チョコボの群の愛情深さより、勢いでびっくりの方が印象が強烈だった。
「(おーい、プーレ〜!)」
話している側から、甲高い子チョコボの声が聞こえてきた。
急に声をかけられたプーレは、びっくりして飛び上がる。
「わわっ、ムヴィ!」
「(お母さんから聞いたよ〜。プーレちっちゃいね〜♪)」
「うっ……ほっといてよ!!」
いくら子チョコボでも、生後1年以上も経てば5歳の人間の子供よりは背が高くなる。
幼馴染らしい女の子にそう言われれば、やはり男のプライドに関わるらしい。
結構な数の種族において、女より男の方が大柄に育つからだろうか。
「(それにしても、プーレったら今までどこ行ってたのよー!
みんながもうあきらめたっていうのに出てっちゃって!)」
「お兄ちゃんをさがしに行ってたんだよ!」
プーレのとげのある態度に、ムヴィと呼ばれた少女はむっとした。
「(みんなであんなにさがしたじゃない!
あぶないところに行かないで、いい加減あきらめようよ!)」
「ぼくはあきらめられないよ!!」
珍しく本気でプーレが声を荒げた。
だが、相手も負けてはいない。
「(でも、今までずっとさがしたのに見つかってないんでしょ?!)」
「まださがしてないところだっていっぱいあるよ!!」
「お、おいおい落ち着きなよ2人とも!
ケンカしたってしょうがないだろ?」
気が立ってる2人の間に、アルセスが割って入った。
お互いにかんしゃくを起こしたらたまったものではない。
そうやすやすと矛が収まらないようだが、
ここはいったんでもいいから収めてもらわないと困る。
「おちついてよぉ〜!おともだちなのに、けんかはよくないよぉ?」
「(だって、プーレが……。)」
エルンも仲裁に入ってくれたが、ムヴィは口を尖らせる。
「ごめん。悪いけどさ、今はちょっとそういうの無しにしてくれないかな?」
言い訳を始められたら、また喧嘩が再燃する。
アルセスはどうにかなだめようと、努めて優しく言い聞かせた。
せっかく故郷に帰ってきて久しぶりに会ったのに、いきなりけんかでは後味が悪い。
出来るなら穏便で和やかにしたいものだ。
それはプーレのためにというのもそうだが、相手のためでもある。
「(でもー……。)」
「まーまー、落ち着きなって!
いきなりケンカしちゃダメだゾ☆」
まだ口ごもっていたムヴィだが、
結局その場に居た当事者以外全員にたしなめられて、渋々口をつぐんだ。
「……で、ムヴィの用って今のだけ?」
「(だ、だって……!
プーレったら、出てったっきり一回も帰ってこなかったじゃないの。)」
ムヴィが言葉をつまらせながら、むくれた顔でそういった。
言われてみるまでもなく、確かにプーレは今の今まで一度も故郷には立ち寄っていなかった。
もちろんプーレにだって言い分はあるが、帰らなかったのは事実だ。
「そりゃそうだけど……。
ぼく、あっちこっち行って探してたんだよ?」
世界のあちらこちらを巡っている間は、故郷に帰ろうとは思わなかったし、
こちらで経過していた半年に至っては、プーレ達にとっては不可抗力の時間だ。
もっとも、さすがにこれについては言及しないが。
“心配してたんだ。わかってやれ。”
「んー……。」
ルビーがこっそり飛ばしたテレパシーに口を濁しつつ、
プーレは少し考えてからまた口を開いた。
「今まで帰らなかったのは……えーっと、
お兄ちゃんをちゃんと見つけたら帰るつもりだったから。」
「(……あきらめ悪すぎだよ、プーレ。)」
ムヴィは呆れたというよりは、根負けしたようにぼやいた。
今回のやり取りで、プーレが思ったよりも頑固なところがあることに気づいた仲間達は、
何となく少しだけ彼女に同情したという。



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プーレの友達登場。いきなり喧嘩してますが、この件に関してプーレは強情なのでしょうがないです。
それはさておき、次の話には新しい目的地の話も出したいところ。
今度は確かバロンかな……?(記憶が曖昧すぎる
というか展開が遅い気がするので、もうちょっと何とかします、はい。